権現様の森の大蛇

　昔、伊奈氏の氏神である権現様の森で、一人の職人が薪を割っていました。

　一休みしようと松の木に腰をかけ、キセルを取りだし、たばこを吸い始めました。一服して、そのキセルで松の木をポンとたたくと、松の根が少し動いたようでした。さして気にもかけず、もう一度たばこを吸ったその時です。

　こんどは、ユラユラと大きく揺れだしたのです。なんと、松の木と思って腰掛けていたのは、胴回り三〇センチメートルもある大蛇だったのです。

　職人はすっかりあわてて、道具も放り出し、逃げ出したのですが、大蛇は草をかき分けてどんどん追ってくるのです。

　職人は、どうにか家に逃げ帰ったものの、そのままバッタリ倒れ込んでしまいました。

　そして、職人は妻の必死の介抱のかいもなく、そのまま「こわい、こわい」と叫びながら、死んでしまったということです。