古寺の狸
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ある古寺に、一人の坊さんがひっそりと暮らしていました。
実入りが少なく貧しいお寺で、女房・子どもなどももちろんいるはずがなく、本当に寂しい暮しでした。
この坊さんの楽しみといえば、夜になって囲炉裏の端で暖かい「すいとん」を作り、「フーフー」吹きながら食べることくらいだったのです。近所の人達までが「すいとん坊主」とあだ名を付けたほどでした。
この寺の近くに、つぶれ家が一軒あり、そこに狸が巣を作って住んでいました。
ある日、この狸がすいとん坊主のことを知り、一つからかってやろうと悪知恵をしぼった末、お寺の庭にスイーッと飛んでいって雨戸にトンと当たればスイトン(すいとん)になると考えつき、狸は毎晩スイーッと飛んでいき、トンとぶつかっていたのです。
初めは気づかなかった人の良いすいとんさんも、そのうちに「おれがすいとんばかり食べているので狸公めからかっているのだな」と悟り、思わず苦笑いをしたのです。しかし、あまりにそのいたずらが続くものですから、さすがのすいとんさんも、「いっか狸を懲らしめてやろう」と思案しました。
ある晩のこと、すいとんさんは心張棒を片手に持ち、雨戸にもたれながら根気強く狸が来るのを待っていました。しばらくすると、狸が風に乗ってスイーッと近づく気配がしたので、すいとんさんはころあいを見計らってサッと雨戸を開けました。
狸は、トンと当たるはずの雨戸が無くなっていたので、はずみをくらってそのまま奥の座敷まで転がり込んでしまったのです。そこで、すいとんさんは力まかせに狸をぶちのめしたのです。狸は傷だらけになった頭を抱えて、命からがら逃げて行ったそうです。
すいとんさんにとって、その後は静かな毎日が続いたのですが、そのまま引っ込む狸ではありません。何とか仕返しをしょうとたくらむ毎日でした。
ある夜、すいとんさんが、いつものようにすいとんを食べようと囲炉裏に鍋をかけていると、何となく快い風に体をつつまれるような気がしました。ふと脇を見ると、かわいい小娘がチョコンと座り込んで、気持ち良さそうに囲炉裏に手をかざしているのです。さすがのすいとんさんもギョッとしましたが、悪い気はいたしません。かわいい小娘と二人きりで囲炉裏にあたり、好物のすいとんの香りが辺りに漂っているのは、なんともいいようのない良い気分です。
しばらくして、なにげなしに娘の方を見たすいとんさんは、また、びっくりしたのです。きちんと揃えていたはずの着物の前がはだけ、膝が出ていたのです。いたずら好きのすいとんさんは行儀の悪い小娘に、火箸の先を焼いて股にそっと押し付けるまねをしてやろうと考えたのです。そして、チロチロ燃える火の中に火箸棒を突込んで何食わぬ顔で焼きはじめても、小娘は何も知らない様子で気持ちよさそうです。いよいよ火箸が赤くなりはじめました。この時とばかりに、囲炉裏から抜き取り、娘の股に押し付けようとしてそばを見ると、どうしたことか、小娘の姿は、煙のように消えていたのです。
さすがのすいとんさんも、ゾーッとしてしまい、「あの狸公め、化けやがつたな」とガタガタ震えながらつぶやいたそうです。
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